Pickup Creator取材記事

Kobe Mural Art Project 秋田大介 saggy steez

Kobe Mural Art Project
秋田大介
saggy steez

 

|プロローグ

 

神戸市役所の建物に色鮮やかな壁画が描かれたのを目にした人も多いはず。
実はこれ、Kobe Mural Art Projectが仕掛けたもので、2020年3月に閉鎖された市役所本庁舎2号館に3組のアーティストが絵を描きました。そして、それらに呼応するかのように、市役所の北側に隣接するクーリングタワー防音壁にも4組のアーティストによる壁画を実現。三ノ宮~フラワーロードの景色が一変しました。
2019年12月に発足した「Kobe Mural Art Project」の活動について、プロジェクトの代表にして神戸市役所公務員の秋田大介さん、アーティストのsaggy steez(以下、サグ)さんに聞きました。

2号館南側に描かれたミューラルアート。ミューラルとは英語で壁画の意味。

|神戸はミューラルアートの発信地!

 

―解体前とはいえ、市役所の建物に壁画を描くというのはかなり異例のプロジェクトではないでしょうか。

秋田:パブリックで最も公平性を求められる建物にアートを入れるというのは、まず、そもそも許可自体がおりません。しかも、ストリートアートの文脈にも近いので、「落書きじゃないのか」という偏見もあります。非常に神経を使わなければいけないプロジェクトでした。

サグ:役所が運営するスケボーパークや公園に描くということはあっても、市役所に色をつけるというのはあり得ないことだと思ってました。アーティストとしてもハードルが高くて、すごく攻めてるプロジェクトだなぁと。

―プロジェクト実現へといたる経緯をお聞きする前に、これまでの神戸とミューラルアートの関わりを教えてください。

秋田:「POW! WOW! JAPAN」という大きなミューラルアートのフェスティバルのディレクター・岡本絵美里さんが神戸に住んでいて、その第1回は東京開催でしたが、2016年の第2回から神戸で開かれています。2017年の第3回は「港都KOBE芸術祭」との連携事業になりましたけど、私はそうした地元調整の手伝いを裏でやっていました。
ミューラルアートってパブリックアートを制作することになるので、壁を借りるにしても自治会の人たちに承諾を得る必要があったりして、なかなか個人ではそのパイプがつながりにくい。そのへんのつなぎ役を買って出ていました。

サグ:僕は、2018年の「POW! WOW! JAPAN」から手伝わせてもらってます。2016年のPOW! WOW! でも、好きなアーティストが描いてたので、会場となった六甲アイランドまで写真を撮りにいったりはしてました。

左が秋田大介さん、右がサグさん。秋田さんは、「地方公務員アワード」を2年連続で受賞するなどその活動は多岐にわたる、神戸市役所の名物公務員

―ミューラルアートに関わるなかでどんな可能性が見えていましたか。

秋田:市民とアートの関わりを考えたときに、美術館やギャラリーだと、そこを目的地としてその扉を開けるというハードルがありますけど、ミューラルアートの場合は誰でも見られる、見えてしまうので、そのハードルはまったくありません。しかも、「POW! WOW! JAPAN」では「かっこいい!」「かわいい!」という絵を描くアーティストを意識的に選んでいるので、アートの入り口としてわかりやすくて、広めやすいものだと思っていました。

―では、「POW! WOW! JAPAN」の岡本絵美里さんとの出会いから、今回の市役所に壁画を描くことが実現したということになりますか。

秋田:絵美里さんとの出会いはもちろんとても大きくて、出会った頃から「殺風景な市役所に描けたらいいね」という話はしてました。でも、もうひとつの文脈がありまして、私の本業は市役所のつなぐラボという部署で、社会課題を見つけてそれを解決するチームコーディネイトをやっていこうという任務になります。その課題のひとつとして、神戸の街をよりクリエイティブにできないかという課題を抱えていました。
どうすれば神戸にアーティストが増えるのか。そのためにはアートの仕事にしっかりお金がまわるべきだし、いい作品はきちんと評価して、そこに対価を払うという習慣が市民にも根づく必要があります。そう考えると、ミューラルアートの敷居の低さに大きな可能性があるなと。ちょうどそこに、市役所の老朽化にともなって建物の建て替えが決まったんです。

―市役所にミューラルアートを持ちこむチャンスが巡ってきたということですね。

秋田:そうです。先行して解体された市役所の3号館は、個人的な印象としてはあっという間に解体されて更地になりました。建物に対するセレモニーやお別れという機会もなくて、それもどうなのかなという思いもあって。市役所の2号館は震災で被害を受けて、5~8階部分(5階はその後増築)を取り除いて使ってきた建物でもあります。なので、その最後をアートで飾りたいという提案をして、ようやく実現への道筋が見えました。

|いかにして市役所の壁にミューラルアートが実現したのか

 

―いくつもの文脈があってこそ、市役所でのミューラルアートが実現したわけですね。これが市役所のプロジェクトではなく、民間プロジェクトとして動いていることには理由がありますか。

秋田:この話が持ち上がったのが2019年6月頃で、2号館の解体は2020年の夏~秋に予定されていました。となると、春には作品を描いてもらいたいのに、2020年度に予算をつけてというスピード感では全然間にあわない。これは民間でやったほうが早いなということで、民間で「Kobe Mural Art Project 」を立ち上げて、クラウドファンディングを中心にしてプロジェクトを実現することにしました。
公務員としての立場、民間のいち市民としての立場をうまく使い分けながら物事を進められるのが、私の利点ですから。

―では、秋田さんのこのプロジェクトへの関わりは仕事ではない?

秋田:はい、副業申請を出しています。逆にいえば、仕事中に関わることができないので、実際にアーティストに描いてもらう現場に立ち会うためにかなりの有給休暇を消化してしまいました(笑)。

2号館北側に描いたのはHITOTZUKI。世界的に活躍する夫婦でもあるアーティストユニット。フラワーロード側(手前)に描かれた大きな花は、JRの駅ホームからも見えた。

―プロジェクト実現までに時間が限られている中で、今回のアーティストはどのように決定しましたか。

秋田:私自身はまったくアーティストについての知識もパイプもありませんから、POW! WOW! ディレクターの絵美里さんや、WALLSHAREの川添孝信さんという2人の専門家にディレクションしていただきました。 市役所2号館の壁画は世界的なアーティストを招聘して、ミューラルアートの魅力を市民に伝えることを大前提にして、クーリングタワー防音壁の方は地元兵庫県のアーティストにこだわって、公募をかけて選出しました。

―パブリックアートとしての側面を考えると、モチーフや具体的なビジュアルをどうするか、その相談も大変そうですね。

秋田:そこの調整はしないと決めていました。アートに対して行政が口を出せば出すほど、作品としてはどんどんつまらないものになるという助言もいただいてましたので。事前にテーマは定めますけど、あとはもうアーティストにまかせて。

―アーティストにまかせるというのは英断ですね。具体的にどのようなテーマを定められましたか。

秋田:先ほども話したように市役所2号館は震災の被害にあっています。そして、建物の南側は、震災復興の象徴のような場所となっている東遊園地にも面していますので、神戸が次のステージへ向かえるような力強い絵をお願いしました。北側は花時計があった場所に面していますので、花をテーマにして。 実際、南面の上層階に描いたチチさん(TITIFREAK)は、神戸から笠戸丸に乗ってブラジルに移民された方のお孫さんで、東日本大震災の仮設住宅でも絵を描かれてましたので、このテーマも自然と受け容れていただきました。

2号館南側に描いたTITIFREAKは、ブラジル・サンパウロ生まれの日系ブラジル人。グラフティアーティストとして、ナイキやアディダスとの仕事も手がけている。

―クーリングタワー防音壁にもテーマは設けられましたか。

秋田:こちらは単純明快で、コロナの自粛期間中に相談したということもあって、とにかく元気が出る絵を描きましょうということ、3つの面があるのでそれぞれ山、海、街というテーマでお願いしました。
公募で選んだサグ(saggy steez)とケーシー(KAC)は、キャリアもあるのでお任せできる安心感がありました。みえいさん(佐藤未瑛)はこれまで壁画をやったことがなくて、キャンバスで描いてた作家なので、今回をチャレンジの場にしてもらいました。ベロ(VERO)はすごく若くて経験も浅いので、サグにお願いしてコラボレーションという形で描いてもらいました。

防音壁南側は海がテーマ、KACが担当。HITOTZUKIの壁画と向かい合う位置にあって迫力十分。

|アーティストの目で見たプロジェクトの姿

 

―アーティストの立場で、サグさんは今回のプロジェクトをどう見ていたのでしょう。公募に名乗りを挙げて選出されたという流れだと思いますが、そのあたりの経緯を教えてください。

サグ:「Kobe Mural Art Project」のことは発足した頃から気にしていて、多少なりとも神戸で活動していた身としては当然、やる気でした。もしも選ばれなかったとしたら、活動をやめるべきだというくらいに自分を追いこんで(笑)。 公募が始まるよりも先に、市役所2号館でクラウドファンディングのキックオフイベントが今年の2月にあって、そこでライブペイントをするというので呼んでもらいました。秋田さんと出会ったのもそこが最初で。

―公募で選出されてからはスムーズでしたか。

サグ:市役所2号館のプロジェクトは先行して4月頃に描く予定でしたが、コロナで延期になったと聞いたのをきっかけに、フラワーロードの1本東の道路にある建物で許可取りから段取りまで自分でやって、先にひとつ壁画を描いたんですよ。自分ひとりでもできることをやろうって。 コロナでテンションの下がっている街に対して、自分の絵で少しでも景色を変えられる実感が持てたので、そこからいくつか大きな壁を描いてました。

―クーリングタワー防音壁で描きはじめる前に、神戸の街でいくつか壁画を描いてたということですね。

サグ:そうです。ひとりで壁に向かう分にはコロナも関係なかったので。そのときの制作を通して、自分の新しいスタイル、エネルギーが放出しているようなモチーフを見出すことができて、 それをクーリングタワーの作品でも活かしました。山というテーマが与えられた面なので、真上 から見た山の姿とも捉えられますけど、そこは自由に見てもらえたら。

saggy steezの担当したクーリングタワー防音壁北面。花の絵はVEROが担当。

―すぐそばの市役所2号館では世界的に活躍するアーティストが描いてますけど、その影響はなにかありましたか。

サグ:勉強させてもらったところもありますけど、壁の前ではみんな平等、ライバルだと思ってるので、正直、これはバトルだと思って自分を貫きました。それぞれの相乗効果もあって、すごく面白いプロジェクトになりました。

秋田:絵の個性もまったく違うし、描き方も異なっています。市役所と防音壁で6つの面がありますけど、それぞれがバラバラなので、誰もがどこかに好きな絵を見つけられるはず。そういう効果もあったのか、完成後はほとんど苦情めいた話はありませんでした。ほっとしました (笑)。

周りのビルとも調和したsaggy steezの作品。

|ここからミューラルアートはさらに広がっていく

 

―神戸市役所2号館での壁画は、主にクラウドファンディングで集めたお金が制作費になっています。

秋田:クラウドファンディングをやってよかったのは、多くの神戸の人が自分たちのお金を出して関わってくれたこと。最終的には566万円を集めることができました。といっても、クラファン事務局への手数料や返礼品、イベント開催のことなどを考えると、実は、それでも制作費としては足りず、市のOBなどから寄附金を集めたり、グッズを買ってもらったりしました。ただ、どちらにしても今回は儲けない方がいいと思ってましたから赤字で良いと考えていました。「秋田、これで儲けよったな」と思われてもまずいので(笑)。

―これからのプロジェクトの展開はどうなっていくのでしょう。

秋田:今回のクラウドファンディングでも、POW! WOW!の岡本絵美里さんにディレクションを依頼できるというリターンを用意して、実際にそれを購入くださった方との話が進んでいます。このプロジェクトを通して市場開拓を続けて、この先は赤字覚悟とかではなく、アーティストにもディレクターもしっかりペイできるような形でまわしていくのが目標です。

クラウドファンディングのリターンとして、2号館内部でのペイント弾撃ち合いイベントも実施。いわば、リアル“スプラトゥーン”。解体前の建物ならではの企画。

―アーティストへの正当な評価と仕事をつくるというのも、秋田さんの目標のひとつでした。

秋田:そうですね。市役所2号館の制作費は、きっちりアーティストフィーを出せたと思っています。もちろん、東京や大企業の仕事に比べるとまだまだ安いでしょうけど、神戸としてはこれくらいというレベルまで。
これからは、これがひとつの基準になると思うんです。アーティストへの支払いもそうですし、今回は高い場所に描くために高所作業車を借りたりもして、そうしたレンタル費や材料費といった制作費も明確になりました。これを足がかりにして、ミューラルアートの市場がわかりやすく、開かれたものになっていけばいいなと思います。

制作に使ったスプレー缶もクラウドファンディングの返礼品に。801人から5,669,000円の支援を達成したクラウドファンディングの記録は、CAMPFIREのサイトに残されているhttps://camp-fire.jp/projects/view/222104

―プロジェクト完成後の評判はどうでしょう。

サグ:グラフティではなく、ミューラルアートを仕掛けるのは「神戸らしいな」って、ニューヨークを拠点に活躍するアーティストに言われました。実際に遠くから神戸まで作品を見に来て、ハッシュタグをつけてインスタにアップしてるようなことも続いています。

―ただ、2号館の建物はもう解体されてしまいます。

秋田:10月29日に解体セレモニーをやって、11月から解体開始です。市役所の内部もふくめて、しっかりVRでも記録撮影してもらえたので、それも「Kobe Mural Art Project」サイトで公開できたらと思います。これがただのVR映像ではなくて、映像に記録した建物のスケールをすべて測れるので、ここから図面を起こして、将来、建物を復元することも可能なんです。

―思い入れのある建物の花道のつくり方、その記録の方法としても、今回のプロジェクトはひとつの形を示せたということですね。

秋田:そうなんです。うまくいけば、歴史的建造物や由緒ある洋館などが壊されてしまうとなったときに、残す方法として選択肢のひとつになってくると思います。

―今後はそれぞれミューラルアートとどう関わっていくことになりそうでしょう。

秋田:今回のプロジェクトをやったことで、市役所の中でもアイデアの引き出しとしてアートの認知が高まって、早くも「あそこ殺風景なんで、アートでなにかできませんか」という話も増えています。実際、行政が動きだしたら、やれそうな場所や壁はたくさんありますから。
ただ今回は、市役所内の人間でもある私がいることで話が通しやすくなるので、プロジェクトの先頭に立ちましたけど、これからはできるだけ私がいなくてもまわるような形に引き継いでいきたいと思っています。アーティストやディレクターがここで仕事をとれるようなプロジェクトになっていけば。もちろん、必要があればいつでも私も関わります!

サグ:クーリングタワーで一緒にやったVEROくんとは、小野市にできるスケボーパークでまた一緒に描いたりだとか、次の展開が始まっています。自分らで署名活動して、地元の西宮浜につくったスケボーパークの絵も毎年塗り直したいですし。
今回のプロジェクトで、秋田さんのような挑戦的な公務員の方と出会えたのはほんとに大きな経験になりました。僕自身の大きな目標は、地元の公園にフリーウォールをつくることなので。誰でもいつでも描ける壁のことですね。その目標に近づく大きな一歩にもなりました。


Kobe Mural Art Project
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